『保健医療行動科学事典』完成


(日本保健医療行動科学会 Web版 News Letter 2000.2.20. より)

事典をテキストに行動科学教育の充実・拡充を

藤崎和彦(奈良県立医科大学)

 待ちに待った『保健医療行動科学事典』がとうとう完成し、メヂカルフレンド社から出版されました。落ち着いたワインレッドの表紙のA5判336ページのハンディな事典としてまとまっています。値段も3500円(税別)と事典としてはリーズナブルな設定で、学生に教科書として指定してもそれほど負担にならない金額です。
 掲載項目は全部で260項目あり、成人病学から心療内科学、精神医学、公衆衛生学まで含めた医学、そして歯科学、看護学、リハビリテーション学、保健学、社会福祉学、心理学、社会学、文化人類学、医療経済学、医事法学、生命倫理学、哲学そして統計学といった、幅広い保健医療行動科学の全領域をカバーした基本必須用語を網羅しており、これ一冊で多岐にわたるこの学際領域の全貌が一望できるような感じに仕上がっています。

 白状すれば本来、この事典発行は本学会の10周年記念事業としても企画されたのですが、この掲載項目の選定にとても苦労し手間どってしまったために、大変ずれ込んでしまい、一番の原因をつくってしまった者として非常に責任を感じるとともに、ご心配いただいた皆さんにはこの場をお借りして、お詫びさせていただきたいと思います。また、宗像会長、山崎理事、諏訪前理事には後をすべてまかせることになり、すまなく思います。
 言いわけがてらにずれ込んだ理由を説明するならば、幅広い分野にまたがる学際領域であるがゆえに、分野によって同じ用語が違った意味合いで用いられていたり、逆に同じようなことを表すのに、違った用語が用いられていたりと非常に様々であり、それらをある程度ひとくくりの語群としてまとめたり、レベルを合わせたり、整理していく作業に大変手間どってしまったからです。

 一つ自慢したいところがあります。書き手が各界の第一人者や新進気鋭の若手研究者で固められており、どの項目をとってみても読みごたえのある中身になっていることです。これだけの幅広い領域でこれだけの書き手をそろえられるのは、ネットワークの広い本学会ならではのことで、とてもよそではまねのできないことだと思います。
 それぞれの掲載項目ごとに、関連する参照項目がキーワードとしてあがっており、それらを順番に見ていくだけでその用語をめぐる全体像がなんとなく見えてくるようなつくりになっており、読み物としても読んで楽しい事典となっています。また、充実した索引も素晴らしく、掲載項目でなくとも、本文中に引用された用語や人名から関連する項目に行き当たるようにできています。

 このように素晴らしいできばえのわれらが『保健医療行動科学事典』が完成したのですが、次の課題はこの事典をどのように活用していくかだと思います。もちろんまずは学会員一人一人が手元において活用していくことが第一歩であるでしょう。わが学会は保健医療行動科学という学際領域の学会ですので、それぞれの学会員も自分の出身領域の言葉や概念には詳しくても、他の分野の用語や概念に疎いことも少なくありませんから、まずは保健医療行動科学の分野の用語や概念について全体的な知識や理解を獲得することが出発点になることは間違いないでしょう。
 その次は、この事典をテキストにして保健医療行動科学の教育の充実・拡充を行っていくことです。医学教育や看護教育、他の医療者教育において、行動科学と名のつく教育単元は徐々に増えてきていますが、残念ながら今までは教科書になるような全領域をある程度カバーした入門書があまり存在していませんでした。そういった意味でも本書は待望の出版ということになり、ぜひ今後は本書をテキストにして、行動科学教育の充実・拡充を行っていっていただきたいと思っています。

 本学会の会員数も、ここしばらくは1000人弱のところでずっと落着いているのですが、この会員数を今後飛躍的に伸ばしていくうえでも、行動科学の概念や用語に親しんだ若い世代をどんどん育てて行くことが大きな突破口になることと思います。事典の出版を契機として本学会がさらにレベルアップされていければと強く願っていす。